BENCHNOTE CLUB WEB SITE

片手でも音楽を表現することに変わりはない

堀田 左手のピアニストとしてやっていこうと思われたのはなぜですか。
舘野 脳溢血で倒れてから一年半がたったころ、ヴァイオリニストとしてシカゴに留学していた息子が帰ってきてお土産にブリッジが書いた左手のためのピアノ曲集の楽譜をくれたんです。
堀田 19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したイギリスの作曲家ですね。
舘野 左手で弾いてみたところ、蒼い海が深く呼吸しながら流れてきて、壮大な海原がうねりながら広がっていったんですね。自分の体とピアノが一体となって音楽を奏でていることが心に響いてきて、手が1本だろうが2本だろうが、音楽の表現に変わりはないと気づきました。
堀田 まさに、人生の転機となった出来事ですね。
舘野 それまでは「左手のピアノ曲」なんて、死んでも弾くものかって思っていましたから、この楽譜に出会わなかったら、いまも頑に両手で弾くことを目指して悶々としていたかも知れません。息子にはほんとうに感謝しています。

かなで続けてきた音楽は自分の血となり肉となる

堀田 左手だけだと、高音から低音まですべて片手で弾かなければなりませんから、演奏するのはたいへんなのではないですか。
舘野 むずかしいのはたしかですが、たいへんではないですね。むしろぼくはおもしろいと感じています。左手だけで演奏するようになっても、不自由さを感じたことはありません。
堀田 左手だけで弾くコツがあるということですか。
舘野 たしかに片手では高音域と低音域を同時に弾くことができないので、いろいろ工夫は必要です。でも、それは楽曲をどう表現するかということなので、両手であっても片手であっても変わりはないのです。
堀田 音楽を奏でるのは心で、たいせつなのは、音楽ときちんと向き合うということなのですね。
舘野 50年も演奏を続けていると、演奏してきた音楽のひとつひとつが、自分の血となり肉となっているのです。そうした土台があるからこそ、どんな状況でも音楽を奏でることができるのですね。

◎フィットネス講座

お部屋の中で簡単ウォーキング