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限りある時間のなかで

堀田 曲を演奏されるときは、楽譜を読みこまれるんですか。
吉野 新しく曲に取り組む場合はそうですね。もっとも現代曲の場合は、作曲家から話を聞いたり、共同で作り上げていくこともあります。逆に子どものときに習った曲は、先生に注意されて、そういうものだと思い込んでいることがあるので、意識して楽譜を読み直すように心がけています。
堀田 優等生でいらしたのですね。
吉野 どちらかと言えばそうかもしれませんね。大人になってから、昔の先生の言葉の裏にある思いがくみ取れるようになり、同じ解釈でもより深く理解できるようになったと思います。
堀田 小澤征爾さんと対談したときも、年とともに解釈が変わるとお話されていました。
吉野 そうですね。変わりますね。根本は同じなのですが、光を当てる部分が変わると、違うものが見えます。こういう見方もあったなと気付くことも多いです。
堀田 新しい自分を発見できますね。最近、新たにレーベルを立ち上げたとお聞きしました。
吉野 6歳からずっとハープを弾いてきて、今まではこれもあれも後ですればいい、時間はいくらでもあると先送りしていたんですが、ふと気が付くと、50歳に近くなってきました。もちろん、まだ先は長いのですが、でも永遠ではないので、自分の中で何を大事にしていったらいいか、考えるようになりました。
堀田 新ジャンルへの冒険ですね。
ぜひ吉野さんには、新しい曲を初演していただきたい。それが演奏者の醍醐味(だいごみ)ではないかなと僕は思います。

頑固に、でも柔軟に

堀田 最後に、座右の銘はございますか。
吉野 心がけているのは「頑固に、でも柔軟に」ということです。実は私、結構頑固なんです。音楽でも、やりたいことや方向性、自分のスタイルがあり、基本はそこからブレない。

堀田 譲れない一線があるんですね。
吉野 はい。でも同時に、柔軟でいるというのも、とても大事だと思います。
堀田 頑固さとフレキシブルさ、どちらも譲れないですね。
吉野 そうですね。私は小さい頃アメリカに住んでいたこともあり、帰国後は、インターナショナルスクールに通っていました。「世界で活躍する国際人になるためには、まず自分のアイデンティティーをしっかりと持つことが大切」と、インターナショナルスクールの校長先生から教わったことが、今の私の核になっているように思います。
 演奏家になってからも、コンサートなどでいろんな国に行くチャンスをいただいています。海外では、予定通りにならないことも多いですが、いろいろな考え方、価値観があっておもしろい。音楽でも、新しいものを取り入れると、自分の幅が広がります。
堀田 それは素晴らしいですね。これからも健康に留意されて、ぜひぜひ80歳、90歳まで、がんばっていただきたいと思います。

サイトウ・キネン・オーケストラ:毎年夏に長野県松本市で開催されるセイジ・オザワ 松本フェスティバルにおいて、臨時編成されるオーケストラ。


対談中の吉野直子さん(右)と堀田編集委員長

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