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すべてのものに感謝してこの食事をいただきます

堀田 お寺には、どのくらい行かれていたんですか。
滝田 一週間ずつ、何度か通っていました。そこで修行僧たちと寝食を共にしながら、原作、シナリオ、資料を手元に置いて、勉強しました。竹千代(家康の幼名)はここで何を学んだのだろう。そのうち、2つほどこれがヒントかなと思うことがありました。
 1つは食事です。禅宗では、食事の前に五観(ごかん)の偈(げ)というお経をあげます。
 板の間に正座し、全員でお経を唱えてから「いただきます」と言って、白湯のようなうすいおかゆに、沢庵一枚の食事を大切に、大切に食べる。するとお米を育ててくれた農家の方、それをここまで運んでくれた方、料理人、水や太陽、大地…そういったものへの感謝が、自然と感じられるんですね。
 400年前、竹千代も僕らと同じように食事のたびにお経を唱えたはず。ということは、お百姓さんの労働や自然の恵みに対して、家康は心の底から「ありがとうございます」という気持ちを持っていただろうと思ったんです。

甘渋苦(かんじゅうく)3つそろって人生の味わい

堀田 苦労して、お寺で暮らすことによって、感謝の念を学んだんでしょうね。
滝田 深い感謝ですよね。でも、これだけじゃ家康はわからない。
 撮影も近くなってきて、これはいよいよダメかなと思ったときに、倉内松堂老師が庵に呼んで下さったんです。きっと僕が追い詰められているのを感じてらしたんでしょうね。どこで、誰が何を感じているか、みんなお見通しなのでしょう。煎茶を淹れて下さり、頂戴しましたら、杯ごとに驚くほど味が違うんです。
 「一杯目はあえて甘く入れるから『甘(かん)』、2杯目は渋く入れるから『渋(じゅう)』、3杯目は熱いお湯で苦く入れるから『苦(く)』。甘渋苦(かんじゅうく)、3つそろって人生の味わいというんだね」と、にこにこしながらおっしゃる。
堀田 人生そのものですね。辛苦に耐えたからこそ、最後に大きなことを成し得たんでしょうね。
滝田 2つ目は『苦しみ』です。家康の生涯は『苦』の連続。苦しみの一つ一つを乗り越えて、最後に平和を招来した。無様でも、不格好でも、必死で越えていくところに、家康の人生ドラマがある。アッと、頬を叩かれたような気がしました。
 僕は当時32歳、若かったので、大河の主役と聞いた瞬間に「かっこよくやりたい!」と思ってしまったんです。フィルターがかかって、澄んだ目で見られなくなってしまった。老師がそれをはずしてくれたんだと思います。
堀田 人の上に立つ人間には、若いころの経験や苦労が絶対に必要ですね。それが一番の薬になる。織田信長や、豊臣秀吉にしても、多くの人は、権力を持つと私利私欲に走ってしまう。でも、家康にはそれがないのですね。自分と同じ苦労をさせたくないという気持ちがトップにあれば、人はついてくる。そういった人が多くなれば、世界は平和になるのではないかと思います。

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