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悩んだ末、演奏活動を封印

堀田 その後、日本での演奏活動を封印し、アメリカに留学されていますよね。コロンビア大学とジュリアード音楽院、2つの学校を掛け持ちされて大変だったでしょう。
諏訪内 チャイコフスキーコンクールで優勝して、一流オーケストラと共演するチャンスをたくさんいただきましたが、だんだんと自己嫌悪に陥るようになってしまったんです。彼らと一緒に音楽を作り、聴き手に伝えるためには、私にはまだ力が足りない、楽器だけ弾いていてもまずいのではないかと思い悩んだ末、日本での演奏活動を断ち切って、アメリカへの留学を決意しました。
 ジュリアード音楽院は、「音楽家たるもの、アカデミックな教養も身につけるべき」という方針なんです。学長のアドバイスもあり、交換制度のあるコロンビア大学で政治思想史を学びました。音楽と政治、歴史は切っても切れないものです。政治思想史なら、曲の時代背景や政治哲学も勉強できるのではないかと思いました。当時は湾岸戦争がちょうど始まったころで、ジュリアード音楽院の寮生にははイスラエル人も多く、政治や思想といったものを非常に身近に感じました。
堀田 留学前と後では、同じ曲を弾いてもずいぶん違ったんじゃないですか。
諏訪内 恩師であるアイザック・スターン先生からは、いつも「作曲家の生い立ちや時代背景、環境を勉強しなさい」「作曲家の自筆の楽譜を見て、自分で表現法を考えなさい」と言われていました。
 私たち音楽家は、同じ曲を何度も演奏しますが、経験を積むにしたがって曲の解釈はどんどん変わっていきます。得た知識というのは、ずっと残りますから。
堀田 音楽はある意味、作曲者と、それを解釈する演奏者の総合芸術なのかもしれませんね。
諏訪内 私、現代曲を弾くのも好きなんです。なぜかというと、存命の作曲家なら何でも質問できるから。古い曲を弾くときでも、バッハやモーツァルトはどうだったのかなと考えながら演奏しています。
堀田 諏訪内さんほど、現代音楽、しかも新しい曲に挑まれている方はいないですよね。
諏訪内 現代曲は、難しくて敷居が高いと思われがちですが、本当はすごく面白いんですよ。現代音楽の素晴らしさを、少しずつでも伝えられたらいいなと思っています。

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