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わが国における
糖尿病の歴史 第1回【人類原初の医療】

■ひたすら神に祈る

 わが国の糖尿病治療の歴史は他のあらゆる文物と同様、大陸から その知識がもたらされました。その大陸では人類誕生以来いろいろな 病気に悩まされてきました。人類の歴史は病との戦いの歴史ともいえ ます。まずそのあたりから振り返ってみましょう。 原始社会の人々は自然の災害や病気を神や悪魔の仕業と考えていまし たので、自然を恐れひたすら神に祈り、あるいは占いで病気や災いから 逃れようとしていました。おそらくこの段階から経験的に、草根木皮を治 療の手段として利用していたと思われます。

■「クスシ」は医師を意味した

 時代がくだりますが、わが国では7世紀頃医師を「くすし」と呼んで いましたが、「薬師」(くすりし)薬を扱う人を意味し、また薬(くすり) の語源は草煎り(くさいり)で、草を煎じて薬として用いていました。

▲ 古来より現代に伝わる疫病よけの「茅の輪くぐり」
  (30日夏越の輪 京都 北野天満宮 )

■漢字にも呪術のなごり

 一方漢字の医の古い書体「醫」の下の「酉」はお酒を意味しますが、 お酒を薬としても使用したと思われます。さらに「醫」より古い書体 「毉」の下の「巫」は"まじない"を意味し、「巫医」の呼称もあり祈祷に よる医療行為が行われたことが想像されます。医療と魔術、占い、 酒(薬)との強い関連を示唆します。 

■西欧にも興味深い痕跡

 実は西欧にも興味深い事実があります。 英語の「medicine」には医学、医術のほかに、医薬、超自然力や呪い、 魔術の意味があります。さらに「medicine man」とは未開社会に おける祈祷師、呪い師のことなので、ここでも「医術」、「薬」、「占い」 との密接な関係がうかがわれます。「medicine」をたどるとおそらくオリ エント文明に行きつくと思われます。  このように発祥が異なる世界の主だった地域にもかかわらず、いろ いろな点で共通するものが多いことには驚かされます。

■世界四大文明形成に伴い医学も発展

 原始社会で治療の経験や知識は世界のいわゆる四大文明の形成に伴 い、医術と呼ばれるものになり、記録にも残されるようになってきま した。四大文明社会(メソポタミア、エジプト、インド、中国)の 医術には共通した点がたくさんあります。たとえば現存する文献で初期 のものはどの地域でも簡潔で要を得ていますが、時代がくだるにしたがい 呪術、魔術など宗教的、神秘的な要素が加わる傾向があります。 逆に地域的な独自性を示す治療法として中国の鍼灸やメソポタミア の瀉血などがあります。


▲ 瀉血手術図
  瀉血:「悪血を除く」という治療概念から血液を
  除去する処置、西欧では19世紀末までおこなわれ
  ていた。(長崎県立美術館所蔵)